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ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

グールド魚類画帖 十二の魚をめぐる小説 - リチャード・フラナガン 渡辺佐智江訳 (白水社)

ひょんなことから読み始めた一冊。

書名から内容を想像すると、自然科学小説かなと思ったのですが、これがめちゃくちゃヘヴィーな歴史小説でした。

現在は、自然の美しさあふれる観光地といったイメージをもつタスマニアですが、19世紀、イギリス産業革命後の時代に、オーストラリア領ファン・デーメンズ・ランド(今のタスマニア)は犯罪者流刑地でした。

現在残っているのは、流刑者であるウィリアム・ビューロウ・グールドが残した36葉の水彩画。この水彩画に出会った小説家、リチャード・フラナガンが、当時のタスマニアの社会を、魚の絵と関連づけて小説としたものがこの本です。

内容は重いです。イギリス侵略者の原住民への虐殺、受刑者に対する監視人の暴行、暴力と死が日常的に存在する社会で、グロテスクな表現も多くみられます。

主人公のグールドは、絵の才能を認められ、他の受刑者とは異なる仕事 - 分類のために魚を絵を描いたり、カジノの壁画を描いたり - を与えられます。そのグールドからみたさまざまな人間の狂気、傲慢、裏切、悲哀が生々しく描かれています。

現代日本に通じる汚職もみられます。カジノを作って母国のVIPを誘致するところは横浜におけるIR誘致を、公文書を改竄して王国を作り上げようとするところは森友事件をを思い起こします。古今東西、悪の為政者が考えることは変わらないのだなぁと感心した次第。

さて、殺人の罪を着せられたグールドは死刑を宣告され、最後には彼の内面的な世界が描かれます。哲学的な部分も多く難読箇所も目立つ本ですが、これまで知らずにいたタスマニアの黒歴史に触れることができた一冊でした。

私はその方面の知識に乏しいですが、19世紀のタスマニア、イギリス、オーストラリアの歴史を理解して読むとさらに本書への理解が深まったなと思いました。

こちら目次。章の初めには、それぞれ魚のイラストがカラーで載っています。
ほとんどがお馴染みの魚だと思いますが、最後のウィーディー・シードラゴンはタスマニアの固有種だそうです。

著者プロフィール。なんか中世風な風貌だ。

訳者プロフィール。

奥付。原書は2001年の発刊。

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p.s. くだらない自民総裁選にTV電波や新聞紙面を使わないでほしい。2300引いて残りなし。