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ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

読書メモ

M/Tと森のフシギの物語 - 大江健三郎 (岩波文庫)

『同時代ゲーム』を読んだときは、マジック・リアリズムの手法に興味を惹かれたのがきっかけでしたが、その後に大江作品を読んでいるとこの作品は、レヴィ・ストロースの構造主義に影響を受けていることを知りました。 では、構造主義的観点から『同時代ゲー…

性転換する魚たち - 桑村哲生 (岩波新書)

魚の雌雄についてはツリオヤジの誰もが興味深いところでしょうか。また、クロダイをはじめとして性転換を行う魚も多いことも知られています。本書は、魚の性転換のメカニズムについての解説書です。 内容紹介。 目次1。作者はホンソメワケベラの観察から、性…

涙の箱 - ハン・ガン きむ ふな訳 (評論社)

2008年の作品で、『菜食主義者(2007年)』と『ギリシャ語の時間(2011年)』の間に発刊されています。 大人のための童話、と評されています。とはいっても、倉橋由美子の『大人のための残酷童話』のようにアダルトなものではなく、正統派ストロングスタイルの童…

魚が存在しない理由 世界一空恐ろしい生物分類の話 - ルル・ミラー  上原裕美子訳 (サンマーク出版)

タイトルに釣られて読んでみた一冊。 裏表紙に書いてある内容紹介。これを読んでも主題がよくわからないと思うのですが、おそらくそれが狙いであって、ミステリー小説のように、先が読めない、意外性で読者を驚かす、という効果を狙っているのではと思います…

そっと静かに - ハン・ガン 古川綾子訳 (クオン)

2006年、36歳で書かれたハン・ガンのエッセイ集。ハン・ガンが苦悩していた時期に書かれたエッセイで、「書きたいのに、書かなければいけないのに、書けなかった時期」がこの年だそうです。2005年に『蒙古斑』が李箱文学賞、2007年に『菜食主義者』が出版さ…

魚影の群れ - 吉村昭 (ちくま文庫)

記録文学、それも海に関する作品が多い吉村昭の短編集です。 内容紹介。 『海の鼠』は、1949年に愛媛県の戸島で起こった、ネズミの大量発生のドキュメンタリーです。事実に基づき、淡々とした文体で島民らのネズミ対策が綴られています。 『蝸牛』は実話かど…

悪霊 (上)(下) - ドストエフスキー 江川卓訳 (新潮社)

『カラマーゾフの兄弟』、『白痴』、『罪と罰』に続いて、『悪霊』を読んでみました。ロシアでの発刊は1873年。長編としては、『カラマーゾフの兄弟』の前に位置する作品です。 内容紹介。 本文の前に、上のルカ福音書が引用されています。悪霊に憑かれた豚…

菜食主義者 - ハン・ガン きむ ふな訳 (クオン)

ハン・ガンの2007年作品。これまでハン・ガンの作品は、『回復する人間(2013年)』、『別れを告げない(2021年)』、『少年が来る(2014年)』、『すべての白いものたち(2016年)』と読みましたが、それらとは一味違う感じで、孤立と孤独、他者に理解されない悲し…

なぜ世界は存在しないのか - マルクス・ガブリエル 清水一浩訳 (講談社選書メチエ)

近代思想を調べているうちに行きついた一冊。 昨今増し続ける日本社会の息苦しさの原因は何なのだろう、と思索する日々なんですが、悲しいかな昭和じじいの思考は実存主義界隈で止まっています。構造主義からポストモダニズムと続く流れから脱却し、不条理な…

水中の哲学者たち - 永井玲衣 (晶文社)

この本、実は魚の本だと思ってました。釣具新報のコラムネタに魚の本を検索しているときに、なぜかこの本がヒットしたのだと思いますが、タイトルが面白そうで、「あ、こりゃきっと哲学的な生態をする水中生物の本だな」と一目見て早とちりしてしまい、図書…

人魚の嘆き・魔術師 - 谷崎潤一郎 (中公文庫)

久しぶりに谷崎潤一郎を読んでみました。 こちら内容紹介。 2編の中編からなります。いずれも谷崎潤一郎らしさが溢れる怪奇譚で、奇譚好きにとってはたまらない内容ですよ。 美を語る谷崎の文体は、比類するものがないと言えるでしょう。華麗な文体で知られ…

叫び - 畠山丑雄 (文藝春秋2026年3月号)

アメリカのイラン進攻、ハメネイ殺害は、重大な犯罪だ。ロシアのウクライナ進攻の際に、「武力による現状変更は許せない」と声高らかに叫んでいた政府とマスコミは、今なぜ沈黙している?ロシアはダメでアメリカならよいのか?核保有疑惑が武力行使を是とす…

時の家 - 鳥山まこと (文藝春秋2026年3月号)

第174回芥川賞は、受賞作品が2つ。 スタートから家についての描写が続き、なんだこれは?新たなジャンル「建築小説」か?と思いましたが、空き家に忍び込みスケッチを始める謎の青年が登場したあたりから、物語の輪郭がはっきりしてきました。一軒の家にま…

死刑について - 平野啓一郎 (新潮社)

『ペスト』の中で、タルーの告白を聞いていささか衝撃を受けた箇所。予審判事である父親の職場見学にいって、死刑宣告をする父親の姿を「法の下の殺人」とし、嫌悪感を覚えたところです。 カミュの不条理の思想は、肉体的自殺も精神的自殺も否定していますが…

カリギュラ・誤解 - カミュ 渡辺守章・鬼頭哲人訳 (新潮文庫)

ちょうどこの本を読んでいるときに衆院選が行われていて、結果は自民の圧勝、トホホな結果となりました。このトホホ感というか失望感は、2012年に民主党から自民党に政権が移ったときの経験とそっくりです。安倍晋三が日本の経済のみならず、倫理、教育、報…

ペスト - カミュ 宮崎嶺雄訳 (新潮文庫)

うちでは『カラマーゾフの兄弟』の江川訳と亀山訳を別々の本棚に置いているのですが、それを見たばあさんが、「嘆かわしや!読んだことを忘れて同じ本を買っておる。おまえさんもついに認知症になったのだね。あなおそろしや!」と騒ぎだしたので、「否!訳…

月魚 - 三浦しをん (角川文庫)

釣具新報のコラム用に読んだ一冊。 古書の世界に生きる2人の若者を描いた物語。少年時のある出来事が2人の将来に大きな影響を及ぼし、その出来事によって生じている2人の距離感が絶妙に描かれています。 美少年小説というか、プラトニックな同性愛小説と…

シーシュポスの神話 - カミュ 清水徹訳 (新潮文庫)

『異邦人』を読んでこんな小説があったのかと少ながらず衝撃を受け、これはもっとカミュを読まねばならぬ、とまず手にしたのがこちら。 カミュの不条理、が明らかにされるエッセイです。『異邦人』の中で、ムルソーが神父につかみかかる理由、死刑台に送られ…

石に泳ぐ魚 - 柳美里 (新潮文庫)

4年前に『JR上野駅公園口』を読んでから、久しぶりの柳美里作品。1994年の作品で柳美里の小説家デビュー作。 内容紹介。在日二世の主人公梁秀香の、社会の中の閉塞感、距離感が重いストーリーで語られています。直接的な表現は出てこないですが、差別、貧困…

すべての、白いものたちの - ハン・ガン 斎藤真理子訳 (河出書房新社)

横浜市立図書館に貸出依頼していた本が忘れた頃に連絡がきた。ハン・ガンの作品は大人気で、これまで借りた本も予約時には200人近くの待ちになっていましたが、この作品も100人以上の予約がスタックされていて、半年くらいかかりました。あと2冊を依頼して…

異邦人 - カミュ 窪田啓作訳 (新潮文庫)

カフカ短編集を読んで、そういえばカミュは読んだことないことを思いました。フランスの作家は、ボードレール、バルザック、リラダンなどは読んだことがあるのですが、それほどハマることはなく、カミュを手にしようとする気もあまり起こらなかったのですが…

ピンチランナー調書 - 大江健三郎 (新潮社)

大江健三郎の中期長編。文庫本の古本を注文したつもりだったけど、ハードカバーだった。 発刊は1976年。1973年の『洪水はわが魂に及び』と1979年の『同時代ゲーム』の間に位置する作品です。 帯には上のような、著者の言葉が書かれています。単行本や文庫本…

決定版カフカ短編集 - カフカ 頭木弘樹編 (新潮文庫)

村上春樹の作品リストを眺めていると『海辺のカフカ』という作品があり、カフカってどこの国の人だっけ?と考えているうち、こないだ書いたオタ・パヴェルのエントリーに間違いがあったことに気づいた。その中で、「初めてチェコ文学を読んだ」と書いてしま…

東京奇譚集 - 村上春樹 (新潮文庫)

『カラマーゾフの兄弟』を読んでいて、ふと村上春樹のことが頭に浮かびました。わたし、村上作品はほとんど読んでないです。20代の頃にばあさん(当時20代)が、『ノルウェーの森』を読んでいて、どんな小説だろうと読み始めたのですが、あまりの気怠さに上巻…

カラマーゾフの兄弟 1~4 - ドストエフスキー 江川卓訳 (中公文庫)

先日、『罪と罰』を読んでドストエフスキー文学の理解度が進んだように思えたので、ここは『カラマーゾフの兄弟』を再読すべきという、と天の声(?)が聞こえました。 2022年に、光文社古典新訳文庫版(亀山郁夫訳)を読んだのですが、せっかくなので別の翻訳者…

罪と罰 (上/下) - ドストエフスキー 工藤精一郎訳 (新潮文庫)

読書の秋ということで、なにか名作を読んでみましょう、と選んだのが『罪と罰』。ドストエフスキーの作品は、『カラマーゾフの兄弟』、『白痴』に続いて3冊めです。 以前に読んだ2冊と比べ、断然に面白く読めた。というか、文章がすんなりと頭に入ってきて、…

ボヘミアの森と川そして魚たちとぼく - オタ・パヴェル 菅寿美/中村和博訳 (未知谷)

初めてチェコ文学を読んでみました。 内容紹介。 ボヘミアの美しい自然を描いた、オタ・パウェルの自伝的小説です。この本に書かれているチェコの釣り人の姿は、日本の釣り人と共通します。釣り人はどの国でも変わらないもんだ。 本書は、なによりも、文章が…

文学は何の役に立つのか? - 平野啓一郎 (岩波書店)

7月に出た平野啓一郎の新刊。横浜市の図書館に登録されるまで一か月くらい、すぐに予約したけど先着が10人近くいたので、借りるまでに時間が掛かりました。人気あるね。 内容紹介。雑誌掲載の評論、随筆、講演会の文字起こしなどを一冊にまとめた本です。表…

少年が来る - ハン・ガン 井出俊作訳 (クオン)

光州事件を扱ったハン・ガンの小説。ハン・ガンの作品を読むきっかけになったのは、彼女が2024年のノーベル文学賞を受賞したことですが、それから早や一年が経ちました。時の経つのは早いものです。2025年のノーベル文学賞の発表は明日、10月9日です。 目次…

グールド魚類画帖 十二の魚をめぐる小説 - リチャード・フラナガン 渡辺佐智江訳 (白水社)

ひょんなことから読み始めた一冊。 書名から内容を想像すると、自然科学小説かなと思ったのですが、これがめちゃくちゃヘヴィーな歴史小説でした。 現在は、自然の美しさあふれる観光地といったイメージをもつタスマニアですが、19世紀、イギリス産業革命後…