Humdrum++

ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

読書メモ

水中の哲学者たち - 永井玲衣 (晶文社)

この本、実は魚の本だと思ってました。釣具新報のコラムネタに魚の本を検索しているときに、なぜかこの本がヒットしたのだと思いますが、タイトルが面白そうで、「あ、こりゃきっと哲学的な生態をする水中生物の本だな」と一目見て早とちりしてしまい、図書…

人魚の嘆き・魔術師 - 谷崎潤一郎 (中公文庫)

久しぶりに谷崎潤一郎を読んでみました。 こちら内容紹介。 2編の中編からなります。いずれも谷崎潤一郎らしさが溢れる怪奇譚で、奇譚好きにとってはたまらない内容ですよ。 美を語る谷崎の文体は、比類するものがないと言えるでしょう。華麗な文体で知られ…

叫び - 畠山丑雄 (文藝春秋2026年3月号)

アメリカのイラン進攻、ハメネイ殺害は、重大な犯罪だ。ロシアのウクライナ進攻の際に、「武力による現状変更は許せない」と声高らかに叫んでいた政府とマスコミは、今なぜ沈黙している?ロシアはダメでアメリカならよいのか?核保有疑惑が武力行使を是とす…

時の家 - 鳥山まこと (文藝春秋2026年3月号)

第174回芥川賞は、受賞作品が2つ。 スタートから家についての描写が続き、なんだこれは?新たなジャンル「建築小説」か?と思いましたが、空き家に忍び込みスケッチを始める謎の青年が登場したあたりから、物語の輪郭がはっきりしてきました。一軒の家にま…

死刑について - 平野啓一郎 (新潮社)

『ペスト』の中で、タルーの告白を聞いていささか衝撃を受けた箇所。予審判事である父親の職場見学にいって、死刑宣告をする父親の姿を「法の下の殺人」とし、嫌悪感を覚えたところです。 カミュの不条理の思想は、肉体的自殺も精神的自殺も否定していますが…

カリギュラ・誤解 - カミュ 渡辺守章・鬼頭哲人訳 (新潮文庫)

ちょうどこの本を読んでいるときに衆院選が行われていて、結果は自民の圧勝、トホホな結果となりました。このトホホ感というか失望感は、2012年に民主党から自民党に政権が移ったときの経験とそっくりです。安倍晋三が日本の経済のみならず、倫理、教育、報…

ペスト - カミュ 宮崎嶺雄訳 (新潮文庫)

うちでは『カラマーゾフの兄弟』の江川訳と亀山訳を別々の本棚に置いているのですが、それを見たばあさんが、「嘆かわしや!読んだことを忘れて同じ本を買っておる。おまえさんもついに認知症になったのだね。あなおそろしや!」と騒ぎだしたので、「否!訳…

月魚 - 三浦しをん (角川文庫)

釣具新報のコラム用に読んだ一冊。 古書の世界に生きる2人の若者を描いた物語。少年時のある出来事が2人の将来に大きな影響を及ぼし、その出来事によって生じている2人の距離感が絶妙に描かれています。 美少年小説というか、プラトニックな同性愛小説と…

シーシュポスの神話 - カミュ 清水徹訳 (新潮文庫)

『異邦人』を読んでこんな小説があったのかと少ながらず衝撃を受け、これはもっとカミュを読まねばならぬ、とまず手にしたのがこちら。 カミュの不条理、が明らかにされるエッセイです。『異邦人』の中で、ムルソーが神父につかみかかる理由、死刑台に送られ…

石に泳ぐ魚 - 柳美里 (新潮文庫)

4年前に『JR上野駅公園口』を読んでから、久しぶりの柳美里作品。1994年の作品で柳美里の小説家デビュー作。 内容紹介。在日二世の主人公梁秀香の、社会の中の閉塞感、距離感が重いストーリーで語られています。直接的な表現は出てこないですが、差別、貧困…

すべての、白いものたちの - ハン・ガン 斎藤真理子訳 (河出書房新社)

横浜市立図書館に貸出依頼していた本が忘れた頃に連絡がきた。ハン・ガンの作品は大人気で、これまで借りた本も予約時には200人近くの待ちになっていましたが、この作品も100人以上の予約がスタックされていて、半年くらいかかりました。あと2冊を依頼して…

異邦人 - カミュ 窪田啓作訳 (新潮文庫)

カフカ短編集を読んで、そういえばカミュは読んだことないことを思いました。フランスの作家は、ボードレール、バルザック、リラダンなどは読んだことがあるのですが、それほどハマることはなく、カミュを手にしようとする気もあまり起こらなかったのですが…

ピンチランナー調書 - 大江健三郎 (新潮社)

大江健三郎の中期長編。文庫本の古本を注文したつもりだったけど、ハードカバーだった。 発刊は1976年。1973年の『洪水はわが魂に及び』と1979年の『同時代ゲーム』の間に位置する作品です。 帯には上のような、著者の言葉が書かれています。単行本や文庫本…

決定版カフカ短編集 - カフカ 頭木弘樹編 (新潮文庫)

村上春樹の作品リストを眺めていると『海辺のカフカ』という作品があり、カフカってどこの国の人だっけ?と考えているうち、こないだ書いたオタ・パヴェルのエントリーに間違いがあったことに気づいた。その中で、「初めてチェコ文学を読んだ」と書いてしま…

東京奇譚集 - 村上春樹 (新潮文庫)

『カラマーゾフの兄弟』を読んでいて、ふと村上春樹のことが頭に浮かびました。わたし、村上作品はほとんど読んでないです。20代の頃にばあさん(当時20代)が、『ノルウェーの森』を読んでいて、どんな小説だろうと読み始めたのですが、あまりの気怠さに上巻…

カラマーゾフの兄弟 1~4 - ドストエフスキー 江川卓訳 (中公文庫)

先日、『罪と罰』を読んでドストエフスキー文学の理解度が進んだように思えたので、ここは『カラマーゾフの兄弟』を再読すべきという、と天の声(?)が聞こえました。 2022年に、光文社古典新訳文庫版(亀山郁夫訳)を読んだのですが、せっかくなので別の翻訳者…

罪と罰 (上/下) - ドストエフスキー 工藤精一郎訳 (新潮文庫)

読書の秋ということで、なにか名作を読んでみましょう、と選んだのが『罪と罰』。ドストエフスキーの作品は、『カラマーゾフの兄弟』、『白痴』に続いて3冊めです。 以前に読んだ2冊と比べ、断然に面白く読めた。というか、文章がすんなりと頭に入ってきて、…

ボヘミアの森と川そして魚たちとぼく - オタ・パヴェル 菅寿美/中村和博訳 (未知谷)

初めてチェコ文学を読んでみました。 内容紹介。 ボヘミアの美しい自然を描いた、オタ・パウェルの自伝的小説です。この本に書かれているチェコの釣り人の姿は、日本の釣り人と共通します。釣り人はどの国でも変わらないもんだ。 本書は、なによりも、文章が…

文学は何の役に立つのか? - 平野啓一郎 (岩波書店)

7月に出た平野啓一郎の新刊。横浜市の図書館に登録されるまで一か月くらい、すぐに予約したけど先着が10人近くいたので、借りるまでに時間が掛かりました。人気あるね。 内容紹介。雑誌掲載の評論、随筆、講演会の文字起こしなどを一冊にまとめた本です。表…

少年が来る - ハン・ガン 井出俊作訳 (クオン)

光州事件を扱ったハン・ガンの小説。ハン・ガンの作品を読むきっかけになったのは、彼女が2024年のノーベル文学賞を受賞したことですが、それから早や一年が経ちました。時の経つのは早いものです。2025年のノーベル文学賞の発表は明日、10月9日です。 目次…

グールド魚類画帖 十二の魚をめぐる小説 - リチャード・フラナガン 渡辺佐智江訳 (白水社)

ひょんなことから読み始めた一冊。 書名から内容を想像すると、自然科学小説かなと思ったのですが、これがめちゃくちゃヘヴィーな歴史小説でした。 現在は、自然の美しさあふれる観光地といったイメージをもつタスマニアですが、19世紀、イギリス産業革命後…

洪水はわが魂に及び (上)(下) - 大江健三郎 (新潮文庫)

最近ハマっている大江健三郎の中期長編。 文庫本2巻からなります。これまで読んだ大江作品の中では一番長かった。 内容紹介。 障害のある子を連れ、核シェルターに籠る男(大木勇魚)と、国家から抜け出して海へと航海をもくろむ「自由航海団」のリーダー喬木…

あなたが政治について語る時 - 平野啓一郎 (岩波新書)

平野啓一郎の新刊、発売前に予約して買いました。 こちら内容紹介。西日本新聞などに掲載された2018年以降の時評やエッセイをまとめたものです。 主観をぐっと抑えて、中立的な視点からの時事問題を捉えています。とかくこの手の評論は思想的な偏りが出がち…

別れを告げない - ハン・ガン 斎藤真理子訳 (白水社)

回復する人間、に続いてハン・ガン2冊め。図書館予約してから借りられるまで1年近くかかりましたよ。 内容紹介。済州島四・三事件を題材にした作品です。 この小説を読む前に、済州島四・三事件について知っておかねばならぬと、Wikipedia で下調べをして…

われらの時代 - 大江健三郎 (新潮文庫)

大江健三郎の中期作品を読んでいるところなのですが、ちょっともどって初期の長編を。 1959年の書下ろし作品、大江健三郎が24歳のときの作品で、あとがき(1962年記)によれば書き始めたのは23歳のときで、この小説を書いている期間はアルコールと睡眠薬を常習…

世界の果て、彼女 - キム・ヨンス 呉永雅訳 (クオン)

平野啓一郎がNHKのインタビューで韓国文学について話していたのを読みました。その中で、「世界的に見ても、あんなに短編を書くのがうまい作家はいないんじゃないかというぐらい非常に優れています。」と褒めているのをみて、ちょっと読んでみようかという気…

火垂るの墓 - 野坂昭如 (新潮文庫)

本棚を整理してたら出てきた一冊。まったく買った覚えがないし、読んだ覚えもない本なのだけど、これもなにかの縁なので読んでみましょう。 戦後の焼け跡を舞台にしたさまざまな悲劇の物語。 戦争を二度と行わないために、戦争の悲劇を繰り返さないために、…

個人的な体験 - 大江健三郎 (新潮文庫)

『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』を読み、やはり大江健三郎は面白い。主だった作品をもっと読まねばならぬ、と手にした一冊。 こちら内容紹介。これだけ読むと、他の大江作品との違いはわからないのですが、この作品は、「え?これが大江作品なの?」…

風の記憶 - 五木寛之 (角川文庫)

本棚を整理してたら出てきた一冊。 五木寛之は『青春の門』を読んだことしか覚えてないのだけど、この本はいつ読んだのだろう?発行は平成13年なので、おそらく仕事での移動時間の暇つぶしに買ったのだと思います。最初の部分はけっこう覚えている内容ですが…

われらの狂気を生き延びる道を教えよ - 大江健三郎 (新潮文庫)

こないだ三島由紀夫が嫌いな太宰治を読んだので、こんどは三島由紀夫を嫌いな大江健三郎を読んでみようか、と手にした一冊。 1967年から1969年に発表された作品をまとめた一冊。 第一部では詩に対する作者の考えが述べられ、第二部へと続く「詩のごときもの…